先日、ある喫茶店にいった時のことですが、棚にサイフォンが置かれていました。喫茶店によっ てはコーヒー関連商品を売っている店も多々ありますので、さほど驚くことではありません。紙箱 には、サイフォンの写真が印刷されており、確か「プロの味」と書かれていました。動詞もなけ れば主語もない、文になる以前の言葉にすぎません。しかし、見る者には、このサイフォンを使 えば、家庭でもプロの味が楽しめますよ、と語りかけてくるのです。もっとも、プロの味が出る までには、サイフォンの練習が必要となるのは必至です。その意味では、やや誤解を招くので すが、ただ「プロの味」と書かれているだけなので嘘ではないのです。このサイフォンを使って 練習すれば、家庭でもお店のような味が楽しめるかもしれませんよ、実はそんな主旨の言葉 であるのに、見る者が勝手に安易な想像をふくらませているだけなのかもしれないのです。し かし、もし「練習すれば」と書き加えれば、難しいのだろうと思って見る側は買うのをやめてし まうかもしれません。そんなこともあって「プロの味」という魅惑的な言葉だけが残されたのだ ろうか、などと考えました。結局、私にとって、「プロの味」という言葉が意味したのは、味覚とは 違う領域の事柄だったようです。 ■
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by aphorismes
| 2009-02-03 23:08
あれは、数年前のクリスマスの頃だったでしょうか。あるお宅で菓子袋が供されました。中に は、小さなチョコレートが沢山はいっています。包みをあけると、有名な作家の引用句が姿を あらわす仕掛けです。チョコレートそれ自体の味は、さほど印象的ではありません。しかし、包 みごとに引用句が違うため、今度は、何が書いてあるのかという好奇心から、別の包みに手を 出してしまうのです。次はもっと美しい文章かもしれない、次はもっと素晴らしい引用句ではな いか……。一般的には、同じ文章でも、どのような文脈に埋め込まれるかによって意味が異な ります。文章中ではなく、チョコレートの包みに引用されるという特異な状況では、引用された 文章は、その文とは殆ど無関係な仕方で、後続する結果を引き起こす可能性をもっています。 手は、次のチョコレートの方に向います、飽きてしまうか、あるいは「もっと、もっと」という繰り返 しの構図を意識するまで。 ■
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by aphorismes
| 2009-02-02 22:01
いわゆる郷土料理の店には、誰が食べにくるのでしょうか。もちろん、地元でポピュラーな名物 料理もあるでしょう。ただ、それなりの郷土料理店の場合、地元の人がやってくるのは特別の 機会に限られ、訪れる客の多くは観光客ではないだろうかと想像してしまいます。ただし、郷 土料理店がその郷土にあるのか、遠隔地にあるのか、という問題は忘れるべきではないでしょ う。後者の場合、旅行をせずとも、遠く離れた場所の郷土料理を手軽に楽しむことができま す。その郷土料理の店に、同じ郷土の出身者がやってくることもあるでしょう。そのような時、 昔は、特に意識しなかった郷土料理が、懐かしく思われるかもしれません。海外で日本の料 理が食べたくなる、そんなことと似た現象であるのでしょうか。しかし、遠隔地で自分の生ま れた「国」の料理を好きになることと、遠隔地で「郷土」の料理を好きになることの間の落差に ついてはよく意識しておきたいような気がするのです。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-30 21:47
軽い背中の圧迫感も今となつては和らいで、腰痛もすこしは楽になつたと考へていたその矢 先、座しているだけで疲れを感じるようになつたのは、背中をまげてわずかに下を向いたのが きつかけでした。こんな姿勢はよくないのだと、よく指摘されるあの姿勢、これまで全くその影 響を感じる機会はなかつたのですが、この年になつて、姿勢の悪影響がすぐ体感できるやう になつたのは、むしろ一つの勉強の機会だつたのかもしれないと思う反面、ただ座つている だけで疲れてしまうのは困つたものだと、そんなことを考えながら、横になり、目をさまし、腰 痛に効く椅子はないものかなどと夢想してしまうのでした。 付記 タイトルを修正しました。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-29 22:03
物語が明確な映画。これに対し、物語の流れを断ち切るかのように、断片的なイメージが連 続している前衛的な映画があります。このような対比によって隠されるのは、物語的映画が、 実は多様だということではないでしょうか。 後者の場合でも、出来事間の原因と結果が明確なものに対して、そうではない映画があるよ うに思えます。物語の展開が極めて緩やかであり、観客が様々な想像を巡らせる余地があるよ うな映画もあるはずです。 ここで、映画の中で語られる言葉について考えてみます。映像の中で語られるのは、物語的な 世界を生きる登場人物たち、それぞれの声であるのかもしれません。そうした言葉の累積が、 映像のなかの行為や出来事の間接的な説明となり、観客は映像を読み解きます。 しかし、ある種の映画では、物語的世界をいきる登場人物の語りの他、物語の語り手の声が 挿入されます。語り手の声は、当然、各登場人物の声を超えるものとして位置づけられていま す。 しかし、語り手の声がもつ超越的な性格は、ジャンルによって異なります。ハードボイルド風映 画における主人公の声。これは、他の登場人物たちの声に対して特権化された、しかし、「主 観的な」語りとなります。 例えば、工場の中を撮った映像があるとします。途中で挿入される労働者の語りに対して全 体を説明する語りはやはり特権的な位置にありますが、この場合の語り手の声は、「客観的な」 ものとして位置づけられます。 そのような「客観的な」語り手も一様ではありません。語り手が映像の外にいて不可視的な存 在である場合もあれば、具体的な語り手として映像に内在しつつ、それでも「客観的な」説明 として位置づけられている場合もあるように思われます。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-28 23:02
朝というのは すがすがしい 朝になると 陽光があらわれる 小鳥はさえずる 朝というのは すがすがしい 身の引き締まるような冷気 息がすこし白くなる 朝というのは すがすがしい 瞼の重い 徹夜明けの朝だとしても ■
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by aphorismes
| 2009-01-27 09:08
お風呂に入って体を温めたあと、家の外にでかけました。入浴後で体がぽかぽかしていたこと もあって、凄く寒いわけではなかったのですが、やはり、つま先は冷たくなってきました。途中、 気がつけば、私は走り出していました。走ることで体を温めようとしていたのでしょうか。あまり 大した距離ではないのですが、走っているうちに、心臓がどきどきしてきました。すきま風が入 り込む体の表面部分はやはり冷たさが感じられるのですが、体の深部では、暖炉にまきをくべ たように、暖かさが感じられてきました。寒い空気を吸い込みながら、外発的に体を温めるこ と、内発的に体を温めることの違いについて、私は考え始めていました。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-25 23:40
その本棚の上には、ハーブの辞典が並んでいました。ハーブの効用に関する好奇心。その時 かかえていた症状にきくハーブは何かという興味。そんなことを考えながら、その分厚い本を 手に取りました。ハーブティーのコーナーにいくと、時折、種類ごとの効用が書かれているのを 思い出したというわけです。さて、沢山の名前の中から辛うじて私の知っているハーブのペー ジを開けると、そこには説明がびっしり書かれていたのです。目を通してみると、微に入り細を うがつように、様々な効用や色々な副作用が書かれていました。効用だけをとってみても、とて も詳しく書かれているために、何が主要な効用、及び副作用であるのか、何が周辺的な効果 であるのかといったことが、理解できませんでした。わかったことといえば、それが一般向けの 本ではないということ。一般的なハーブの知識はすでに修得している人が、例外的な効用や 細かな副作用について調べる本なのだろうか、とそんなことを想像しました。翻って考えてみ ると、理解しやすい一言に要約されたハーブの効用といったものは、どのように考えるべきな のだろうかということが気になるのでした。要約の過程で何が失われるのか。ハーブの効用を 調べようとした私は、効用についての日常的な見方について考えるようになっていました。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-23 21:59
遠くの街で買っていた入浴剤を、あるお店でたまたま見つけ、思わず大きめの商品を購入しま した。それには試供品がついていました。お湯に溶かすと、ラヴェンダーの香りが漂いました。 大きな商品を買った客へのサービスであり、別の商品を買ってもらうための仕掛けだろうと思 いました。後日、もう一つの試供品を使うことにしたのです。袋には「ミント」という文字が書か れていました。一袋分を手に取って、腹部と胸部にのせながら溶かし始めると、立ち上った湯 気のおかげで、爽快なミントの香りが鼻を突き抜けていきました。こんな爽やかな香りなら、次 は、これを買おうと即座に私は思いました。しかし、本当のミント効果は、その後に現れてきた のです。入浴剤を溶かすための台にしていた私の皮膚は、次第に冷たく感じられてきたので す。熱いお湯のなかで水風呂のような冷たさを感じるのは、なんとも不思議な体験でした。ミ ントの威力を思い知らされる一方、寒さという身体感覚の不確かさを感じたのでした。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-22 23:14
知人によばれ、ライブハウスで音楽を聴いた後、演奏していた方のCDを買おうと考えました。 しかし、二つの作品のうちどれを選べば良いのかわかりませんでした。 二枚のCDを眺めながら、昔の記憶がよみがえります。ファースト・アルバムはじっくり時間をか けて作るけれども、セカンドアルバムの場合はそうではない場合が多い。昔、そんなことを聞い たことがあったのです。 しかし、他方では、昔の作品を賞賛されても新しいものを創造する励みにはならない、そんな 内容の文章をどこかで読んだことを思い出しました。 結局のところ、私が購入したのは、新しい方のCDでした。その結果、私は、好みに合致する音 楽を聴くことができました。探しても、すぐには見つからないような音楽でした。 ■
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by aphorismes
| 2009-01-21 22:11
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本の中の気になる一節。下手の横好きで撮った写真。古いものに惹かれるのですが、ひょんなことから、このページをたち上げました。
メールチェックが遅れがちですが、ご連絡は下記まで aphorismes@webmail. zmapple.com(切れて表示されるため、分けて書いています。 〜webmail.zmapple.com と続けてください)。 なお、仏語が書かれており、しかも書名が明記されていない場合、下記の文献を参照しています。 R.Carlier, Dictionnaire des citations, Larousse, 2001. F. Montreynaud, et al., Dictionnaire de Proverbes et dictons, Robert, 1989. カテゴリ
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