まだ20代の頃でした。街を歩いていた時、何かがきっかけで小さなギャラリーの中に入ったのです。多分、 正面に飾られた作品が気になったからだろうと思います。ある程度まで偶然の出来事であったとはいえ、そこ で私が見たのは、底知れぬ深みを湛えた幾つかの作品でした。偶然は重なります。そのギャラリーには、作 者が来られていました。思い切って、私は尋ねました。この作品で何を言おうとしているのですか、と。私の ありきたりな質問に対して、作者は応えてくれました。言葉では言えないから、この作品を創ったのです、と。 それを聞いた後、私は自分がした質問の底の浅さにようやく気がつきました。作品を見たことのみならず、こ の会話を交わしたことは、私にとって鮮烈な経験となり、時折、思い出されてくるのです。ただし、それから長 い年月を経た今、私は作者に次のような質問を投げかけてみたいような気もするのです。「言葉」では言え ないからという時の「言葉」とは、何なのでしょうか。きっと解説的な「言葉」のことではないでしょうか。作品 を上位から解説する「言葉」ではなく、もう一つの作品としての「言葉」というものもあるのではないでしょう か。もっとも、このように考えてみたところで、私自身が昔に投げかけた質問のまずさが変わるわけではありま せん。ただ、作品と言葉の関係は、違ったように考えられるような気もするのです。 付記 字句を若干、修正しました。
by aphorismes
| 2009-03-16 20:39
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本の中の気になる一節。下手の横好きで撮った写真。古いものに惹かれるのですが、ひょんなことから、このページをたち上げました。
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