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遅ればせの挨拶


微かな空腹を感じている時に旨い料理店の近くを通りかかったある男、試みにその店まで

行ってはみたものの、正面では何やら若者のグループが談笑している最中だったので、彼ら

をかきわけ店内に入るのも憚られてしまい、結局、男は店から遠ざかっていったのでした。し

かたがない、バスに乗って帰ろうか、と乗り場まで歩いてはみたものの、最終バスが出た後ら

しく辺りは閑散とした状態、そこで男は再び先の店まで歩いて行ったというわけでした。戻って

みると、正面にいた若者たちの姿はどこにも見当たらず、不思議な寂しさを感じながらドアを

開けると、店内では先客たちが、わいわいと盛り上がっている最中。この濃密な雰囲気の中、

たった一人で座るのは場違いだと感じたその男、逡巡したあげく、店を出ようとしたわけです

が、その時、一人の男性から声をかけられて、ある記憶が蘇って来たのでした。共同作業と多

忙さの果てに訪れた突然の異動。果たせなかった挨拶を数年後に実現できたことは望外の収

穫のように思われ、店を立ち去ってからも、男は、極度に忙しかったあの頃のことを思い出して

いたのです。
by aphorismes | 2008-11-03 17:44
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