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独り言


がらっと引戸を開けると、店内には数人のお客さんが座っていました。私はいつもの定食を頼

み、書類に目を通して待っていました。暫らくすると、定食が運ばれてきました。ここに来たの

は久しぶりだったのですが、サラダのマヨネーズはちゃんと抜いてありました。


私が定食を食べ始める頃には、既に他のお客さんたちは帰っていました。しかし、突然、店主

は出前を届けるために外へ出て行ってしまいました。夕食を食べていた私は一人でお店に取り

残されました。誰も見ていないテレビからは、賑やかな音が流れていました。


暫らくすると、店主が戻ってきました。その後、六十代くらいの女性が店に入ってきました。注

文を済ませた後、その女性がテレビに向って声を発しているのが聞こえてきました。周りには

誰もいません。自宅でテレビを見ている時の癖が出てしまったのでしょう。


彼女は、親しげにテレビに話しかけていました。その口調は柔らかく自然でした。周囲にいる人

間を拒絶するような語り方ではなく、テレビのなかの、親しみの感じられる人物への積極的な

語りかけのように思われました。このことが、この独り言を微笑ましいものにしていたような気

がします。
by aphorismes | 2008-01-07 22:51
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