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光の橋


出かけようとした時は、何かが降っていました。風の冷たさに思わず体が硬くなります。船に乗

り込んだのは、それから十数分後のことでした。出発するやいなや、ひどい振動に驚かされま

す。波が荒いせいか、船は上下左右に大きく揺れました。荒くれ馬に乗ったらこんな感じがする

のだろうか、と考えました。


晩年のサルトルをめぐる対談だったか、誰かのインタビューだったか、密閉型ヘッドフォンから

はラジオ番組が流れていました。いくつかの窓は絶えず波に洗われており、風景をどこかぼん

やりとした姿に変えていました。


真横の窓からは、船に衝突した海水が無数の水しぶきとなって砕け散るのが見えました。夥し

い水しぶきは、瞬時に様々な方向へと飛散し、もとの海水の方に戻っていきます。水しぶきの数

や形態があまりに多様であったため、言葉で一つにまとめることは到底出来ない、そう思いなが

らその光景を眺めていました。


気がつくと、空は太陽の光で照らされていました。そして前方に、大きな虹が見えました。船が

進むにつれ、七色に染まった光の帯は大きくなります。次第に、光の帯と地上との接点が近づ

いてきました。そしてある瞬間、七色の光の帯はふっと消えてしまい、あとには何の変哲も無い

海岸の風景がのこされました。


数分後、振り返ってみると、薄暗い雲から幾筋かの光が射し込んでいました。虹と地上の接点

となっていた場所は、陽光で照らされて輝いていました。
by aphorismes | 2008-01-02 15:30
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