ある晴れた日の週末、市内で用事をすませた私は、バスの中で、ある喫茶店のことを思い出しました。どうい うわけか、私は久しぶりに、その喫茶店に行ってみることにしたのでした。店内にはコーヒーの香りが漂ってい ました。注文したブレンドは本格的な味でしたが、そのコーヒーを飲む間、周囲に漂う香りの方が、一層、特 筆すべきもののように私には思えたのです。その後、店を出て歩き出すと、思ったより寒くないことに気がつ きました。そういえば、確かこのあたりに並木道があったはず。いざ、並木道に行ってみると、そこには枝と幹 だけになった樹木が並んでいました。大げさかもしれませんが、以前、この道を通った時は、鬱蒼とした森の ような雰囲気に驚かされたものでした。冬らしい樹木を目にした私は、深い緑色の葉で覆われた木々の姿を 思い出しました。一体、あれは何月のことだったのだろう。その時、私は目の前にある木々を眺めていたので すが、他方では、いつか見た緑の樹木のことを考えてもいたのです。私の外にある対象に向かう視線、記憶 のなかの木々に向う意識。並木道を散歩した時に抱いた感慨は、これらのものの交錯から生まれたような気 がするのです。 #
by aphorismes
| 2009-03-02 19:30
小学生か中学生の頃だったと思うのですが、詩や小説の解説などに接したとき、感動という言葉に違和感を 抱いたことを覚えています。きっと当時は、感動という言葉を実感しながら作品を鑑賞できなかったからで しょう。作品を創作する契機となる感動といったものがあるとして、それが理解できたかどうかについては今 も心もとないのですが、小さな感動のようなものがきっかけで、日記が書けるということは、時折、あるような 気がします。 こんなことを考えているうちに、日記のかわりに写真を撮ってネット上に公開する人のことを思い出しました。 ファインダーでどこを狙うか、複数の写真からどれを選ぶか。写真からどこを切り取って使うのか。どれも選 択の連続ですが、文章の推敲においても、意味は違うとはいえ、やはり選択が伴うような気がします。 しかし、ここで注目したいのは、別のことです。一日に一枚、印象的な場面を写真で撮ることと、一日に一 回、印象的なことについて書くこと。そうした違いは、一日の思い出や意味をどのように変えるのだろうか、 と。 問題は思い出すことに限定されないことでしょう。写真になりそうな場所にいってみる、あるいは日記に書ける ことを探しにいく、さらには特定のことに敏感になるなどと、その日の経験それ自体も変わるような気がする のです。 #
by aphorismes
| 2009-02-27 19:13
チャイムの音がなりました。ドアを開けても誰もいません。外には、とても分厚い電話帳が置かれていまし た。男はその電話帳を手に取って部屋に戻っていきました。コーヒーを飲みながら、男はページをめくってみ ました。そこには膨大な電話番号が記されており、様々な仕方で分類がなされていました。男は「歴史」と書 かれたページに気がつきます。そこには著名な人物の電話番号がありました。電話をすると、肉声が電話で 聞けることになっていました。同じ人の電話でも、違う数字を押すことで別の話題を選べるようになっていま す。ははぁ、新手の商売か、と男は考えます。しかしながら他方では、あの人もいる、この人もいる、と好奇心 をかき立てられたのも事実です。しばらく男はページをめくっていたのですが、「未来」と書かれたページを 見つけました。そのページには、医師の電話番号もならんでいます。将来に直面する病気をさけるため、生 活改善などのアドヴァイスがきけるのでした。「未来」のページには下位区分がありました。そこには10年ご とに番号が記載されています。試しに男は、自分の電話番号を探してみました。10年後、20年後と探して いったのですが、最後まで目を通すこともなく、男は途中でその電話帳を閉じました。 #
by aphorismes
| 2009-02-26 23:09
ドアを開けた人たちがこちらの方に戻ってきました。もしやと思いつつ、一応、私もドアを開けると、かなり待っ てもらうことになりますが、というマスターの声。ひさしぶりに訪れた喫茶店はほぼ満員。久しぶりに来た私は、 待つのを承知で空席に座りました。マスターは大忙しといった様子。私自身がメニューを見て迷ったために、 注文だけでかなりの時間が過ぎましたが、何を頼むか考えている時間は不思議と気になりませんでした。し かし、注文したコーヒーがやってくるまでにはやはり時間を感じました。時折、新たな客が訪れます。満員で あるために、帰っていく人もいれば、奥に座った人もいました。私は運ばれて来たコーヒーを飲みました。昔、 よく来た喫茶店だったのですが、こんな味のコーヒーがあったのかと驚きました。その間も、断続的に新しい 客が訪れました。私は、さっとコーヒーを飲み干して、その店を後にしました。 #
by aphorismes
| 2009-02-25 21:10
その昔、駅まで自転車で通っていた頃のことです。ある地点から緩やかな下り坂になり、遠くまで見晴らせる
場所がありました。自転車でその地点にさしかかると、それまでとは違った仕方で風景が見えたものです。左 右に広がる道路の線は中央の一点へと収斂しています。風景は、もはや平面的なものではなく、奥行きを もって見えました。ただし、漠然と風景を眺めている時は、奥行きは感じられませんでした。道路が描きだす 線を意識的に眺めた場合に奥行きが感じられたような気がします。さて、最近、その道をバスで通る機会が ありました。どのような風景が見えるだろうかと期待しながら。遠くには昔はなかった建築物がありました。そ して、消失点は、ぼやけて見えたような気がします。風景も、私の視力も、変わっていました。 付記 余分な文章を削除しました。 #
by aphorismes
| 2009-02-24 21:51
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本の中の気になる一節。下手の横好きで撮った写真。古いものに惹かれるのですが、ひょんなことから、このページをたち上げました。
メールチェックが遅れがちですが、ご連絡は下記まで aphorismes@webmail. zmapple.com(切れて表示されるため、分けて書いています。 〜webmail.zmapple.com と続けてください)。 なお、仏語が書かれており、しかも書名が明記されていない場合、下記の文献を参照しています。 R.Carlier, Dictionnaire des citations, Larousse, 2001. F. Montreynaud, et al., Dictionnaire de Proverbes et dictons, Robert, 1989. カテゴリ
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