靴が鳴る時


深夜。用事のあった私は、道路の上を歩いていました。あたりは静まりかえっています。きゅっ、きゅっ。奇妙

な音に気がつきました。下の方から、音が聞こえてきたのです。あえて靴の方向を見ることはしませんでした

が、それは確かに靴の音でした。昼間には、まず、わからないような音なのですが、静かであったため、その

小さな音が聴こえてきたようでした。その後、私の意識は、映画の方に向っていました。昔みた映画の中で、

音のする靴を履いていた人物がいたことを思い出したのです。まだまだ履けると思っていたのですが、その

映画を思い出したおかげで、靴の持つ意味が、わたしの中で微妙に変わったようでした。また、ちょいとばか

し賑やかなこの靴では、騒々しい場所以外には行けないということについても考えました。そんなこんなで、

私は新しい靴を買いに出かけることに決めたのです。靴屋さんでは、その時、私が履いていたのと同じメー

カーの、同じ種類の靴が、棚にあるのを見つけました。履き易いのはよいとしても、若干、柔らかすぎる、そう

感じたことを思い出します。しかし、他に手頃な靴が見つからないこともあり、結局は、その靴に決めました。

後日、その新しい靴を履いて階段を上がっていると、靴先が階段の角にあたって、軽くつまずきそうになりま

した。その後、私の意識は、階段をけった足の感覚や、あたった時の音のことから、他のことに向かいます。

これと同じ種類の靴を履いていた時、以前も階段で姿勢を崩したことが数回あった、そんなことが次々と思

い出され、再びその靴を買ったことが、僅かながらに、後悔されてきたのです。
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by aphorismes | 2009-03-12 21:02
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