雨とガラスと風景と

静かで暖かな建物の中。一通り用事を済ませた男は、外に出ようとしました。自動ドアが開きます。見上げる

と、目前には、ガラスが広がっていました。その建物は、自動ドアの向こうに、小さなガラスの空間がしつらえ

てあり、さらに自動ドアを通らなければ外には出られないようになっていました。目前のガラスはうっすら白く

なっており、あちらこちらに夥しい水滴が付着しています。快晴の日であれば、人の意識は、ガラスではなく、

外に広がる風景に向けられていたことでしょう。しかし、その日のガラスは、風景へと人を誘うことはありませ

んでした。そこには、沢山の水滴が付着しており、上方からは、つるつると、つるつると、絶え間なく水滴が流

れ落ちていくのです。背景には曇り空が広がっていたこともあり、ガラスは、目立たない存在であることをや

め、水滴とともに、自らを露出させていたようでした。その後、男は、別の場所に移動します。そこで、男は、

別のガラスを見ました。水滴が付着するという程度を超えて、ガラスはべっとりと濡れていました。ガラスを

通して風景が見えます。空から降る雨のしずくは、ガラスの上で、かすかに縦方向の透明な模様を描き出し

ており、そこからは、歪んだ風景が見えました。このガラスを通して、人の意識は風景へと向います。しかし、

それが歪んだ風景であることによって、同時に、雨に濡れたガラスのことも意識されていくのでした。
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by aphorismes | 2009-02-19 18:06
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