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「読書」と「読むこと」



「読書」と「読むこと」。見たところ、両者は、似ているような気がするのですが、守備範囲が違う

ような気もします。「読書」の場合、その対象は書物であるのに対して、「読むこと」の場合に

は、たとえ「文字」を読むことに限定したとしても、対象はかなり漠然としているような気がする

のです。一方で、「読書」は、書物を読むことであるのだから、それは自明な行為であると考え

るのは性急に過ぎるように思われます。ある人の読書の対象は、手で書きうつされた写本だっ

たかもしれず、音読による読書だったかもしれません。声をあげて本を読み上げている人の

周囲には、朗読を聞いている集団がいたかもしれません。「読書」の世界は、一見、自明なよう

で、多様性を持っています。他方、様々なものを対象としうる「読むこと」の領域は、対象の広

大さによって人を困惑させます。室内の棚に並べられた書物はいうまでもなく、街頭にある看

板、ポスター、さらには前を歩く人が着ている洋服のロゴまでもが、「読むこと」の対象となりえ

ます。写真集のタイトルであれ、映画館の字幕であれ、テレビの語学番組のなかの外国語の

文章であれ、さらに、ウェブ・サイト上の文字列が「読むことの」対象になるのだと考えてみれ

ば、やはり、「読書」と「読むこと」のずれは小さくないという気もしてきます。現代は、「読むこと」

の対象領域が拡大している時代なのかもしれません。それには、きっと、新しい「読むこと」の

出現が伴っているような気がします。
by aphorismes | 2008-12-22 23:34
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