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記念写真


もうすぐ卒業して離ればなれになることでもあるのだし、ここは一つ写真を撮ろうということに

なりました。男はカメラ片手に、友人たちに話しかけながら、皆が笑った瞬間に、パシャリと

シャッターを切ったのでした。


その後、別の男が写真を撮ることに。ところが彼は皆に話しかけることもなく、よくある合図

をしてシャッターを切ったのです。


デジタル・カメラなど無い時代のこと、フィルムを現像してもらったあと、二つの写真を眺めて

みると、前者には皆の微笑が定着されている一方、後者には、いささか緊張した顔の面々が写

されていたのでした。


両方の写真に写った人物もいたのですが、しかし、その表情は同じ人間とは思えないほど異

なるものでした。写真を撮るときの一言がカメラを前にした硬い表情をほぐすということを、そ

れは例証しているようでした。


写真の中の表情を眺めていると、撮られたときの状況、そして撮る者と撮られる者との人間関

係など、直接的には写っていない事柄が、間接的な形で刻印されることがあるように思われま

す。


他方、事情を知らない者が写真を見ると、フレーム外の事象が写真に残した痕跡は、関係か

ら切り離され、被写体固有のものに還元される、そんなこともあるような気がします。
by aphorismes | 2008-02-19 20:09
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