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よそ者の耳 


ある日、どこからともなく音楽が聴こえてきました。周囲から聞こえる音楽が、雑音のように感じ

られることもあるでしょう。しかし、その日、私が耳にしたのは、とても美しい旋律でした。


その歌は、微かな郷愁をかきたてるような気がしました。こう書いたのには、理由があります。そ

れまでその歌を聞いたことはなく、郷愁を感じるのはやや不自然だと思えるからです。


素朴な歌声がそんな感情を喚起したのかもしれません。しかし、それ以外にも理由があるらしい

ことが知人の説明から判明しました。


それが、その国の人なら誰もが知っている歌であることを、知人は強調しました。よく耳にする音

楽なので、とりたてて反応すべき歌ではないといいたいようです。


しかし、遠い国に住む私にとって、それは言葉を失うような旋律でした。その音楽が聴こえてきた

瞬間、何の前触れもなく、魂を揺さぶるような映画のなかに入り込んでしまったような気がしたも

のです。


昔から歌い継がれてきた歌。ひょっとすると、それらの中には琴線に触れるものがあったのかも

しれません。しかし、数え切れないほどの繰返しが感覚を麻痺させてしまい、やがて、何も感じ

られないものとなる。


よそ者は、時に誤解をしかねないやっかいな存在であるでしょう。しかし、驚嘆すべきものに驚

嘆できるということは、よそ者の特権であるようにも思えるのです。
by aphorismes | 2008-02-09 20:08
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