復讐心と親切気ーードラマ「家族」 第三回 [11月3日(金)放送分]

[あらすじ]

冒頭で竹野内豊演じる主人公は、妻が離婚と親権を希望していると弁護士から告げられま

す。あなたには子育てはできないという妻の言葉への反発から、主人公は幼稚園のバザー委

員長を引き受けてしまい、奮闘する様子がドラマの前半で描かれます。バザーは成功裡に終

わり、居酒屋で打ち上げがなされるのですが、子育てのため出張や残業をしない主人公は会

社では顰蹙をかっており、見積りミスのためついに解雇を言い渡されます。その後、主人公は

かつて自分がリストラをした人物がいる会社に雇われるのですが、全く無意味な仕事をさせら

れたあげく、主人公は解雇されてしまいます。それが手の込んだ仕返しであったことに気づい

た主人公は、人気のない夜のオフィスで、自分をだました男に殴りかかろうとするのですが、

すんでのところで思いとどまります。その後、屋台で泥酔したあげく、帰宅。するとそこには渡哲

也の演じる佐伯が子供を寝かしつけて待っています。短期間に二度の解雇を経験し泥酔した

主人公は、リストラの仕返しをされたこと、子育てをあきらめて妻にまかせることを彼に告げま

す。しかし、佐伯は自暴自棄になっている彼を殴りつけます。


[二人の男]

ドラマの後半における主人公の経験は、自分に仕事を頼んだ人物に殴りかかろうとした後、自

分が子供の世話を頼んだ人物によって殴られるという反転からなっています。しかし、より重

要なのは、主人公によってリストラされた二人の男性の対比的な描かれ方でしょう。一方で

は、最初から解雇するつもりで雇用し、無意味な仕事をさせる男がおり、他方には、仕事で遅く

なる主人公の子供を家に送り届ける男がいます。リストラに復讐する男/善意で応える男とい

う対比には、主人公に殴られそうになる/主人公に殴りかかるという別の対比が対応していま

す。これらの対比が効力を発揮するのは最後の場面。佐伯に殴られて酔いから醒めた後、主

人公はテーブルにおかれている夕食を見つけます。かつて主人公によってリストラされた経験

があるにもかかわらず、佐伯は復讐することはなく、常日頃、彼の子育てに協力しており、この

日は料理までつくって待っていた。つまり最後の場面では、復讐する男との極端な対比におい

て佐伯の人柄が照射される仕掛けになっているのです。泣き崩れる主人公の顔を映してドラ

マの幕は閉じられます。

もっとも、復讐心/親切気という対比が曖昧になる場面もあります。子育てを諦めようとしてい

る主人公を殴った後、自宅にもどった佐伯は自分の手を無言で眺めます。幼稚園で接す

る子供のためとはいえ、なぜ殴ってしまったのだろう、と言わんばかりに。この場面は短くセリフ

がないため、様々な解釈が可能でしょう。子供のために口論になり、暴力をふるったつもりだっ

たけれども、リストラの話を持ち出されたことで、普段は意識していなかった怒りが現れてし

まったのかもしれない。こう自問自答しているように私には思われたのでした。


『クレイマー・クレイマー』は父と子の関係を中心に描き出していました。ドラマ『家族』のなか

で、血のつながった父子関係が描かれるのはもちろんですが、バザーに出すぞうきんを縫う場

面やけんかをする場面など、主人公と佐伯の、複雑で擬似的な父子関係が生き生きと描きだ

されています。物語の大きな枠組みは実際の家族関係をめぐって展開されるわけですが、そ

うした物語のはざまに散りばめられた、擬似的な父子関係にかかわる小さなエピソードが、

数々の印象的な場面をつくり出しているように思われます。
[PR]
by aphorismes | 2006-11-04 12:35 | [資料集] 社会société
<< 家族をめぐる問題:過渡と迷走 ペシミズム/オプティミズム >>